ゼリーフライの謎
その謎に初めて触れたのは、大学生の頃である。
地元の話をよくしてくれた、行田市出身の同期がいる。遠くまで田んぼが広がる道、古墳がそこら中に点在する“さきたま古墳公園”などなど。行田の話になると、いつもの穏やかな口調に熱が帯び、その強い郷土愛が伝わってくる。熱心な“プレゼンテーション”の中で、ある日ふと「ゼリーフライ」という言葉が飛び出したのだ。
どうやらそれは食べ物らしいが、脳裡に浮かんでくるのは、ゼリーを揚げたぶよぶよの物体。まったくもって実態がつかめない。「けっこう美味しいんだよ」と言われ、興味は湧いたものの、失礼ながらわざわざ行田まで行くほどではないと判断してしまった。
大学卒業から4年後、仕事で行田を訪問する機会を得た。頭の中をよぎったのはゼリーフライの存在。ただ、朝から晩まで現場に張り付かなければならず、名産探しの旅に出る時間はなさそうだった。
そんなとき、「こちら、行田の名産です」という説明と共にお弁当が配られた。
屋台でよく見る透明なパックに入ったその食べ物は、30センチ弱の大きな楕円形を描いた、平べったくて茶色い揚げ物だった。
「これはもしや、ゼリーフライ!」
口にすると柔らかな食感で、お好み焼きっぽい味がする。お好み焼き好きは大好きなので、喜んで美味しくいただいた。
ゼリーフライ欲を満たしたその日から、さらに7年の時が経つ。
横浜・野毛の居酒屋でメニューを眺めていたところ、一緒に飲んでいた大学の先輩が突然「ゼリーフライってなんだろう?」と聞いてきた。
そう、黒板に「ゼリーフライ」という文字が書かれていたのだ。
ゼリーフライ経験者であるわたしは、少し誇らしげな顔で説明する。すると、先輩は興味を示して、これを注文した。
しかし、目の前に出された「ゼリーフライ」は、7年前に見たそれとまったく異なる様相を呈していた。サイズはあのときの半分以下で、丸々ふっくらしている。まるでコロッケみたいな見た目だ。味もお好み焼きとはほど遠く、もちもちとしていて、ソースの味わいが口いっぱいに広がる。
先輩は「お好み焼きとは違うけど、おからが入っていておいしいね」と言ってくれた。
狐につままれたような気持ちで、その場でゼリーフライの写真を撮影し、同期に送った。「前に食べたのは、もっとお好み焼きっぽいやつだったんだけど」と添えて。すると「それはただのフライじゃないか」と返信が来た。
ただのフライ、つまりただの揚げ物…?
狐にさらに顔を引っ張られたような気持ちになり、帰宅後に調べみる。どうやら、行田には“ゼリーフライ”とは別に“フライ”という食べ物があるらしい。
『行田市など北埼玉地方に伝わる「フライ」は、揚げ物ではなく焼き物だ。小麦粉を水で溶いた生地を焼き、野菜や肉などの具材を入れたもので、お好み焼きやクレープのような料理である』
農林水産省
どうやらわたしは、行田の名産=ゼリーフライと勘違いしてフライを食し、そのまま7年以上生きてきたのだ。そもそも、焼き物なのになんでフライなんだ。
しかも、この日横浜で食べた物についても「これは、なんだかしゃれたゼリーフライだな」と言われる。その文面には、なんだか腑に落ちていない様子が滲んでいた。地元民から言わせると、横浜で食べたあの食べ物もゼリーフライとは認定しきれないのだろう。
結局、ゼリーフライとはなんなのだ?
その答えがわかるのは、何年後になるだろう。


