町に出られぬ者の【読書・映画鑑賞記録】

巣籠もりが長引き、夜更かしが常態化してきました。
睡眠不足は美容の敵であり健康の敵であり人類の敵、生活習慣としてはよろしくないのですが、悪いことばかりでもありません。
というのも、しばらく休止していた映画鑑賞を再開できたからです。
映画を見なくなった理由は至極単純で、日中に実家のリビングで映画を見るのはなかなか難しいから。大家族でリビングのテレビ使用権を勝ち取るのは大変なのです(※)。
※筆者は流行りに歯向かってしまう難儀な人間性の持ち主で、映画はスマホやタブレットではなく大きな画面(テレビや映画館)で見たい派です。

しかし夜中になると話は別で、誰にも邪魔されず映画を見ることができます。ということで、今回は鑑賞記録と読書記録になります。

5月の映画鑑賞記録

『千年女優』『千年女優』監督:今 敏  ©2001 千年女優製作委員会
アニメはあまり見ない人間ですが、その中でも今敏監督の作品は見ているほうです。本作は、少女の頃に出会い恋をした男性を追いかけ続けた女優の話。虚構と現実、過去と現在がごちゃ混ぜになりながら進んでいくストーリーは勢いがあり、90分弱ずっと惹き込まれます。「一度しか会ったことがない男に、なぜそこまでこだわる?」と少しのモヤモヤを持ちながら見続けていましたが、最後には納得。それまで美しくロマンティックに描かれていた恋が一気に狂気に包まれ、あとに残るのは爽快な余韻。素晴らしき裏切りでした。

『恐喝(ゆすり)』『恐喝(ゆすり)』監督:アルフレッド・ヒッチコック
久々のヒッチコック映画。ヒッチコック自身初(そしてイギリス初)のトーキー映画です。当初はサイレント映画として制作されたようで、ところどころ無声映画を思わせるカットが挟み込まれ、それが独特の緊張感やリズム感を醸し出しています。また、ヒロインの心理描写が巧みな点やストーリーに王道的な面白さがあるため、1929年の作品なのにまったく古臭さを感じない。経年劣化による映像の荒れさえ演出に見えてしまうから不思議です。
ヒッチコック映画はストーリーが面白いだけでなく、映像的なギミックや恐怖を刷り込んでくる演出も魅力です。この『恐喝(ゆすり)』の場合は、光と影の使い方や車輪、ピエロの絵、「ナイフ!ナイフ!ナイフ!」のセリフなど。まだまだ見ていない作品がたくさんあるので、今後もいろいろ見ていきたいです。

実験4号 It's a small world『実験4号 It’s a small world』監督:山下敦弘  ※コピーライト表記不明
Theピーズの「実験4号」という曲をモチーフにした、映画と小説のコラボ作。小説のほうは伊坂幸太郎氏が手掛けています(※感想は読書記録にて)。自分は映画を先に鑑賞。どちらが先でも問題ないけれど、映画は説明的な描写が少ないぶん、情報量が少なく余韻を味わえます。あらすじや背景を知った上で映画を見たければ、小説を先に読んだほうが物語に入り込みやすいと思いました。また、「実験4号」の歌詞をあらかじめ読んでおいたほうが楽しめます。
子供たちの名前がTheピーズのメンバー名になっていたり、曲・映画・小説のリンクも巧み。映画と小説には共通する着地点があるのですが、小説を読み終えてその仕掛けに気付いて感激しました。

『カメラを止めるな!リモート大作戦!』監督:上田慎一郎  ©カメラを止めるな!リモート大作戦!
YouTubeに公開された映像を鑑賞。こんな状況でも「カメラは止めるな」と言わんばかりの作品で、発想の勝利だと思いました。話題作のタイトルを惜しみなく使ったのはきっと、一人でも多くの人に作品を見てもらい、一つでも多くのシアターを救いたいという監督・キャストの想いからだと推測しています。作り手のメッセージがうまく入れ込まれていて、前半は大いに笑い、後半は涙。クオリティうんぬんではなく、心を動かすものがあります。動画はこちらから。

『記憶にございません!』『記憶にございません!』監督:三谷幸喜  ©2019フジテレビ 東宝
歴代最低といわれた総理大臣が、記憶喪失になったことで生まれ変わっていくというコメディ。何も覚えていない総理が地雷を踏みまくるさまには笑いが止まりません! 国会や政治を(そして世論をも)面白おかしく皮肉りつつ、誠実な総理の姿に周りが心を動かされていくストーリーにはほっこりします。『ラヂオの時間』(1997年)をはじめ、ドタバタしつつも最終的に心温まる展開は、三谷幸喜監督の定番。ベタかもしれませんが、だからこそ安心して見ることができます。配役のはまり具合もよかったです。

『ハード・コア』『ハード・コア』監督:山下敦弘  ©2018「ハード・コア」製作委員会
原作がある作品が実写化されると、原作を読んでいない人が置いてけぼりになったり、逆に原作ファンには物足りなくなることがままあります。しかしこの映画はあまりにぶっ飛びすぎていて、原作未読だろうがもはや関係なく圧倒されます。奇怪なストーリーと山下監督ならではの”間”を活かした独特の空気感、さらに主演・山田孝之氏の濃さが見事にマッチして、訳がわからなくても面白いと感じてしまう。面白いというか、勢いにねじ伏せられているというか…。不器用にしか生きられないハグレ者たちの描き方・演じ方も上手く、通常ならコメディ色が強くなってしまいそうなところを、どこか緊張感を持ったまま物語が進むので、あっという間に映画が終わった印象がありました。

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』監督:ラース・フォン・トリアー
鬱映画と聞いて長い間嫌厭していましたが、もっと早く見るべきでした。こちらは2000年のカンヌ国際映画祭でパルム・ドール(最高賞)を受賞した映画で、主演は歌手のビョーク。
現実(本筋)の狭間に主人公の空想(ミュージカルシーン)が入る形式で、「現実」の淀んだ雰囲気には鬱々とした気持ちになりますが、それが「空想」の美しさを際立たせています。正直わたしは、ミュージカル映画は苦手なほうです。でも、この作品ではミュージカルシーンは現実と切り離されたものとして描かれているので、とっつきやすい。また、ビョークの存在感は圧倒的でした。圧倒的すぎて、作品を喰ってしまうほどの勢い。音楽もビョークが手掛けているせいか、映画というよりも彼女のパフォーマンスの延長のように見えてしまう。それでも後半は物語に一気に引き込まれていきます。鬱展開になるほど美しい映画に仕上がっていき、目が離せなくなるのがもどかしい…。
本当に救いはないけれど、愚直で強い母の愛に感動します。手持ちカメラで撮ったグラグラした映像や異様な寄りカットが、ドキュメンタリーっぽさを醸し出しているせいか、余計に感情移入してしまってつらいです。素晴らしい映画ではありましたが、しばらく二度目を見る勇気はありません。
©ZENTROPA ENTERTAINMENTS4,TRUST FILM SVENSKA,LEBERATOR PRODUCTIONS,PAIN UNLIMITED,FRANCE 3 CINEMA & ARTE FRANCE CINEM

★そのほか鑑賞した映画……『いぬやしき』『こはく』

5月の読書記録

3時のおやつ (ポプラ文庫)『3時のおやつ』(ポプラ文庫)
「おやつ」をテーマにしたエッセイを収載した一冊。いろいろな作家さんの文章を楽しく読めます。1つ1つの話は短いのですが、お題がシンプルなので、各作家の文章の面白さが滲み出ていました。気が向いたときにさくっと手軽さもよいです。お菓子をつまむように少しずつ読み始めるのだけど、それこそお菓子のように、気がついたらけっこうな量を読み進めてしまいます。また読み返したくなる一冊。

実験4号『実験4号』著者:伊坂幸太郎
Theピーズの楽曲「実験4号」をモチーフにした小説と映画のコラボ。映画は山下敦弘監督が手掛けています(※感想は上述の鑑賞記録にて)。わたしは映画を先に見ましたが、どちらが先でも問題ありません。小説が先なら、作品のバックボーンがしっかり見えて映画も入り込みやすいと思います。
映画と小説が巧みにリンクするさまは見事で、心温まるストーリーや共感度の高いセリフはさすが伊坂小説。「どうして俺だけ圏外なんだよ!」というセリフには膝を打ちました。個人的にはザ・ルースターズの名前が出てきたことにグッときたり、いろいろ触れたい部分はありますが、やはりラストに持っていかれました。小説単体で見ても見事な終わり方ですが、映画と着地点が共通しているため、その仕掛けに感激するはず。

四畳半王国見聞録(新潮文庫)『四畳半王国見聞録』(新潮文庫)著者:森見登美彦
繋がりがあるようでないような7つの物語。関連性がありながらパラレルワールドのような赴きもあります。主人公らしき人物(余)をはじめ、登場人物がみな「世間との繋がりを求めてない感じを装いつつも寂しがり」というところが愛らしい。森見作品お馴染みの人物が出てきたり、読みごたえのある詭弁が滔々と語られたり、森見小説好きとしては楽しい面があるものの、ほかの作品と比べると入り込みにくい印象もありました。でも、「大日本凡人會」は大好きです。
「世界はつねに内側へと拡大されなければならず、そこにこそ真のフロンティアがあり冒険がある」という文章は、このご時世、心に留めておきたい言葉。

写真論『写真論』(晶文社)著者:スーザン・ソンタグ 訳:近藤耕人
写真論の古典とされている一冊。読解力不足で難解に感じたものの、現代にも通ずる普遍的な概念を述べていて、読みごたえがあります。写真が主題を美化/芸術化すること、経験を小型化するがゆえに世界(現実)の基準になってしまうこと、消費の欲求に駆られるがごとく撮り続けてしまう魔力など、写真の持つ力に対して警鐘を鳴らしているようにも感じました。また、絵画や映画を引き合いに出して写真の見方を語っている部分も興味深かったです。記憶に残る記述は多々ありましたが、序盤の「写真を収集するということは世界を収集することである」という一文がもっとも印象的。さまざまな文献を読んだ上で、いつかまた再読したいです。

作家の口福 おかわり (朝日文庫)『作家の口福 おかわり』(朝日文庫)
著名人が自身の「ごちそう」について語ったエッセイ集。1つ1つが短いので読みやすく、寝る前にちまちま読みました(お腹が空いちゃうこともあったけれど)。テーマとして挙げた食べ物に対する、各著者の深い愛情が感じられました。文章として面白く読んだものもあれば、豆知識としてタメになったものもあります。森見登美彦氏の「おいしい文章」は食べ物の話ではないもの、すごく共感しました。また、文章の妙にうなる話もあったり。作家さんそれぞれの個性が出た慈味深い文章を、じっくり味わい堪能できます。

写真の読みかた (岩波新書)『写真の読みかた』(岩波新書)著者:名取 洋之助
報道写真の分野で活躍した写真家による著書。著書といっても、著者の逝去後に本人の言葉や書き残したものをまとめた一冊です。1章と3・4章の一部で写真の見せかたを説いていて、2章は自伝かつ読み物の要素が強め。ただ、冒険譚のような読み口なので、それはそれで楽しく読めます。
個人的に一番興味深かったのは、著者が写真家というより編集者目線で写真を捉えている点。「どう撮りたいかを意識せよ」と言うカメラマンや教則本は多いですが、鑑賞者(読み手)を意識するよう訴える方は意外と少ないと思います。事情が事情のため仕方ないですが、もっと掘り下げてほしい部分もあったので、本人が最後まで書いたものも読みたかったです。それを差し引いても良い本でした。

そのほか読んだ本……『Fantasy Seller』(新潮文庫/アンソロジー)、『社会人として必要な経済と政治のことが5時間でざっと学べる』(著者:池上彰)
画像は読書メーターより。

そろそろネタ切れになってきたので、早く日常が戻ってほしいものです。フィリピンに戻る日はまだまだ未定。

今回は初めて映画について書いたので、『金曜ロードショー』のオープニング(少し古いバージョン)をイメージして撮影した写真を掲載します。

Follow me!