写真好きの宿命

カメラを持ち歩くばかりに、街中の撮影係に任命される。これはもう、写真を趣味とする者の宿命だろう。

首にぶら下げたカメラを見て「写真を撮るのが上手いのだろう」と思われるのか、はたまた「きっと快くOKしてくれるだろう」と思われるのか、真実はわからない。
前者に対して反論させてもらうと、カメラとスマホでは勝手が違う。スマホで撮ることが少ない自分よりも、日常的にスマホを操っている学生のほうが、よっぽど上手く撮れる可能性が高い。そんな中年の主張は伝わるはずもなく、頻繁に「写真を撮ってもらえませんか?」とスマホを手渡されるのだ。
撮影すること自体は何の問題もない。ただ、頼まれた以上いい写真を撮りたい。責任が重くのしかかって震える手を、なんとか押さえ、シャッターを押している。

そんな重責を、短時間で幾度も担ってしまったことがある。フィルムカメラを使い始めて初めての春、新宿御苑に桜を見に行ったときだ。

新宿御苑で撮影したフィルム写真(以下、PENTAX SPFとAGFA ULTLA 100で撮影)

桜と相性がいいと教えてもらったAGFAの期限切れフィルムをカメラに詰めたわたしは、意気揚々とゲートをくぐった。桜は見頃で、快晴とは言えないが、雲間から時折太陽が覗いている。平日だったため、人混みもそこそこ。絶好の撮影日和だ。

桜を撮り歩いていると、1組の外国人カップルに英語で「このスマホで写真を撮ってほしい」と頼まれた。
緊張しながらも、旅の大切な記念になることを願って、快くシャッターボタンを押す。背景に桜がしっかり写るよう、立ち位置の指示までこなした。

カップルは嬉しそうにお礼を言ってくれ、胸をなでおろした。ふたりを見送ったあと、引き続き園内を廻る。すると、自撮りをしているひとりの外国人に遭遇。こちらを見た彼女は撮影を頼んできた。もちろん、快くスマホのシャッターを押す。万が一の目瞑りに備えて、複数枚を撮ることも忘れない。

AGFA ULTLA 100の色味が好き

立て続けの責務を果たして散策を続けると、再び例のカップルに遭遇。ふたりは自撮りをしていた。ふと目が合ったので「先ほどはどうも」と親しみを込めて目配せをした。すると、カップルは再びスマホを差し出してきたのだ。もしかしたらアイコンタクトにも言語の違いがあって、ふたりには「自分、また撮りますよ?」と受け取られたのかもしれない。

今日はよく撮る日だ…と思いながら、大きな桜の木にたどり着く。目線まで枝が垂れていて、50ミリの単焦点レンズでも寄りの桜が撮りやすい。雲から太陽が出る瞬間を狙って逆光写真を撮ろうと思い、カメラを構えていると、女子高校生に撮影を頼まれた。

太陽が現れるタイミングを逃さぬよう、素早く、しかし丁寧な手つきで撮影に応じた。うまく盛れていることを願いながら。

女子高生の撮影後に撮った逆光写真

急な依頼による小休止も多々あったが、充分な撮れ高となり、出口に向かう。すると、あのカップルに遭遇した。この広い園内で、度重なる邂逅。三度目ともなると、自分の役割は理解している。目と目で通じ合うわたしたち。心に迷いはなく、もはや言葉は不要だった。無言でスマホを手渡され、撮影係を担った。

なんと、2時間で5件の撮影を請け負い、リピーターまで獲得したこの日。こうしてわたしは、新宿御苑・非公式フォトグラファーとしての数奇な任務を完遂した。なお、報酬は桜吹雪で支払われた。

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